ふと思い立って、部屋にある散髪用のすきバサミを取り出す。
リビングに行き、新聞の折り込みチラシを数枚持ち出す。
洗面所の流しに、チラシを敷く。
鏡の前で、いつものように、もみあげにハサミを入れる。
耳の上あたりのごわつきが気になったので、ここにもハサミを入れてみる。
ざくっ と音がして、もみあげの時よりも大きな毛の固まりがチラシに落ちる。
固まりを見ながら「ああ、案外切れるもんだな」と思う。
初めて、頭のてっぺんにもハサミを入れてみる。
また、ざくっ と音がして、大きな毛の固まりがチラシに落ちる。
なじみの散髪屋で、いつも
「長さはあまり切らなくていいので、量を減らしてほしい」と頼んでいたことを思い出す。
ハサミを入れる場所と角度を変えてみる。
やはり、ざくっ と音がして、毛の固まりが落ちる。
切る、ざくっ、毛が落ちる、を繰り返す。
母親が通りかかり、「散髪してんの」とぼくに聞く。
「うん、案外自分でも切れる気がして」とこたえる。
母は「くせ毛は便利やな」「こんなんもあるで」と、
初めて見るような散髪器具を洗面所の引き出しから取り出す。
うまく使いこなせず、器具を洗濯機の上に置く。
また、切る、ざくっ、毛が落ちる、を繰り返す。
鏡に、ずいぶん髪のボリュームが減った自分が映っている。
「散髪屋はまた今度でいいな」と思う。
チラシの上に、大きな毛の固まりが転がっている。
チラシにくるんで、ゴミ箱へ放り込む。
部屋に戻る途中、髪の間を空気が抜けるのを感じる。
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ぼくにとっての「散髪」はこれまで、2ヶ月に1回はするべきものであり、近所のなじみの理髪店に行くものであり、席に座っていつものように頼めば心配ないものであり、仲のいい理容師のお兄ちゃんと話すのを楽しむもの、であった。
その見方が変わった。
自分の髪がどう生えているかが何となく分かる気がするので、切る過程がおもしろい。
もみあげや襟足は、ちょっとテクニックが要りそうとわかる。
量を減らすだけなら、案外自分でもできる。でも、店のお兄ちゃんとはまた話したいなと思う。
なら、もみあげや襟足を整えたくなって、話したくなった時に行けばいいのだとわかる。
結果的に散髪代も少なくて済むのでうれしい。
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